SNSで見かける「サブスク医療」「高齢者サブスク医療」とは何か。
医療現場でサブスク医療を目の当たりにしてきた医師である筆者が徹底解説します。
旧帝大医学部卒業後、田舎の忙しい基幹病院で研修医として就職。そのまま外科医となり、2度の転勤を経験。最新のロボット手術にも携わり、手術執刀経験は500件超え。夜間緊急手術も大好きなバリバリの外科医でした。
サブスク医療とは
日本の保険医療制度の「バグ」を利用して、格安の月額料金で処方薬をもらい放題、医療受け放題ができてしまうことを「サブスク医療」と呼びます。
一定条件を満たす場合は無料です。
処方薬もらい放題、医療受け放題にするには莫大な費用がかかっていますが、その費用の出所は「社会保障費」と「税金」つまり日本国民みんなのお金「公費」です。
格安や無料で提供してしまうがために、多くの人が過剰に利用しています。無駄な医療が提供されて公費の無駄遣いになっていることもあります。
サブスク医療は「過剰医療」の一種です。日本の社会問題の一つでありもっと普及するべき言葉です。
以下でサブスク医療の関して徹底解説します。
サブスク医療の代表例が「無駄な湿布の処方」なので、そちらに焦点を当てながら説明します。
保険医療制度(国民皆保険)の「バグ」
患者負担は定率または無料
医療費に対する患者負担率は基本的に1割〜3割です。75歳以上の後期高齢者は1割負担と特に安いです。
他、生活保護受給者は無料。身体障害者手帳の所持者も条件により無料。指定難病の治療は無料。
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高額医療費制度で患者負担上限あり
「高額療養費制度」により月額の患者負担額には上限があります。一定額を超えた分は全て公費からの負担になります。
非常に手厚い保険制度ですが、諸刃の剣です。国民の保険料と税の負担が膨れ上がっています。
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出典:高額療養費制度を利用される皆さまへ, 厚生労働省
非常に安い患者負担の問題点
患者負担が格安、無料ということは公費の負担が大きいということです。
格安、無料というのは聞こえはいいですが、長い目線で見ると大変危険です。日本沈没へ向かっています。
多くの問題点がありますが、今回は「サブスク医療」に絞って解説します。
- モラルハザードが起きてやりたい放題になっている
→「サブスク医療」が生まれている - セルフメディケーションが普及しない
- 持続可能な制度になっていない
以下で詳しく説明します。
サブスク医療:患者側の観点から
主なサブスク医療の利用者
特に医療費負担が安く、病院受診をする時間的な余裕がある高齢者や生活保護受給者がサブスク医療の利用者の大部分を占めています。
湿布に関しては70歳以上が7割を消費しています。
モラルハザードが起きてやりたい放題
モラルハザードとは
モラルハザードは元々は保険業界で使われていた用語です。保険によって事故が補償されることから、被保険者がリスク回避や注意義務を行わなくなることを指します。
モラルハザードは社会に悪影響があります。例えば、
- 火災保険をかけたがために、注意を怠り、結果として火事のリスクが高まる
- 火災保険をかけておいて放火するなどの意図的に事件を起こして保険金で儲ける
といったことがおきます。
ここから転じて、日本では広く「道徳的危険」のことを指すようになりました。「moral hazard」の直訳です。
- 保険に加入して自らが火災を起こす保険金詐欺
- 給食費を払わない親の増加
- 国民皆保険を悪用した「サブスク医療」
などがいい例です。
どうせ 格安 or 定額 or 無料 だからと、
「もらえるものはもらっておこう」の精神でモラルバザードが起こっています。
- 必要か分からないような処方薬をもらう
- 暇なので、病院に受診して先生に話し相手になってもらう
- 医師の意見を無視して不要な検査を要求する
無駄な処方薬の代表例が「湿布」です。
年間1300億円分の湿布が公費から処方されています。
セルフメディケーションが普及しない
セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とWHOが定義しています。
要するに簡単な医学知識をつけることで多少の体調不良は自分で解決する力のことです。
薬剤も市販薬を自分で選択して購入します。
セルフメディケーションの普及は日本の課題です。
- 毎日の健康管理の習慣が身につく
- 医療や薬の知識が身につく
- 医療機関で受診する手間と時間が少なくなる
- 通院が減ることで、国民医療費の増加を防ぐ
日本では質の高い医療の安売りが行われている影響で、諸外国に比べてセルフメディケーションが遅れています。
医療保険制度の構造上、国民が自分で自分の健康に責任を持とうとするモチベーションが出ない。
安いのでなんでもかんでも医療機関任せでいいというのが日本のやり方です。
本来湿布は市販されていることから、全てを保険適応で処方する必要はないはずです。
湿布はセルフメディケーションを中心にするべきです。
サブスク医療は持続可能ではない
以上のような問題点を抱えながらも、質の高い医療の安売りが行われています。
他にも数多くの問題があり、悪循環からどんどん保険医療制度は崩壊に向かっています。
サブスク医療を生む保険医療制度は維持できません。
詳しくはこちらで解説しています▼
サブスク医療:医療関係者側の観点から
保険医療制度の構造上、医療関係者はサブスク医療を提供せざるをえないです。
また、医療関係者側のモラルハザードも起きています。
- 医療の適正利用を説得する時間とメリットがない
- サブスク医療を断ると集患に不利になる
- 病院側もサブスク医療で稼げる
これらの問題からサブスク医療は医療関係者によってブレーキがかけられません。
医療の適正利用を説得する時間とメリットがない
「ついでに湿布が欲しいんだけど」
と患者からサブスク医療の希望があった時、本来は「ついで」の処方は認められていないため断るべきなのです。
サブスク医療を断って医療の適正利用について説得するのが正義であり、善意です。
しかしこの説得によって一悶着あると、忙しい業務が押してしまいます。「いいですよ」と処方してしまった方が話が早い。
目にあまるサブスク医療を希望する患者は「モンスターペイシェント」である確率が高く、この場合は説得しても無駄です。
モンスターペイシェントとは
モンスターペイシェントとは医療関係者に対して、理不尽なクレームや要望などをぶつけてくる患者のことです。理解力が低く、話が通じない特徴があります。 患者だけでなくその家族がモンスターペイシェント化することもあります。
サブスク医療を断ると集患に不利になる
サブスク医療を希望する患者はサブスク医療を許容してくれる病院をかかりつけにします。
そのため病院側はサブスク医療を容認しなければ患者数が減って経営状況が悪化します。
病院側もサブスク医療で稼げる
医療関係者側のモラルハザードでむしろサブスク医療を推進してしまう残念な医療機関もあります。
無駄な処方や無駄な頻回受診を促すことで稼げてしまうのです。
サブスク医療をなくすためには
サブスク医療に対処すべきは厚生労働省
悪いのはもらい放題の患者?売り放題の医療関係者?
どちらでもありません。
サブスク医療における黒幕は保険医療制度です。つまり制度を作って管理している厚生労働省。
サブスク医療をなくすためには保険医療制度を適正化して、セルフメディケーションが普及するようにしなければいけません。
安すぎる患者負担額を適正化することでサブスク医療は撲滅できます。
自然とセルフメディケーションも普及します。
患者が行うべきこと
サブスク医療を利用しない
このことに尽きます。
このためにはまず、サブスク医療という概念が普及する必要があります。
医療関係者が行うべきこと
サブスク医療を提供しない
このことに尽きます。
しかし現状ではサブスク医療を許さないという姿勢を取ると損してしまいます。
サブスク医療を医療関係者がなくす方向に行動できる根拠は正義と善意のみです。
根本的解決には制度側の改革が必須です。
まとめ:湿布のことを例に
サブスプリクションのように使い放題の医療:サブスク医療
75歳以上の高齢者の多くは、現役世代の3分の1の料金で医療を受けられます。薬局にて約2500円で販売されている湿布が、高齢者が病院で処方を受けると約30円に。差額は現役世代が国に献上した公費から出ています。
サブスクのようにもらい放題だから、薬局に行かず病院へ。セルフメディケーションの概念はありません。
湿布は痛みなどの症状を抑えますが、病気の根本治療にはなりません。安いから「念のため」受け取り続け、家には使い切れない湿布が溜まります。孫へ宅配便を送る時の緩衝材として使われることもあります(違法行為です)。
- 保険医療制度を適正化
- セルフメディケーションが普及
これらが急務です。
これができるのは厚生労働省です。全く手をつける気配もありませんね。
なぜか?こちらで解説しています▼
実はサブスク医療は日本に多大な悪影響を及ぼしている「過剰医療」の一角に過ぎません。
過剰医療について他の例も挙げて詳しく解説しています▼
ここまで読んでいただきありがとうございました。
<参考文献>
シップ処方量・年間総計1300億円 医療保険でカバーすべきか, 市川衛, Yahoo! ニュース, 2016年11月13日
我が国の医療保険について, 厚生労働省
医療提供体制の国際比較, 厚生労働省
世界の医療と安全(東京海上日動火災保険株式会社)2019年
公的医療保険って何だろう, 厚生労働省
医科点数表
OECD HEALTH Statistics 2019
(参考1)令和3年度 国民医療費の構造, 厚生労働省, 令和3年10月1日
第1章 平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容
平成 17 年経済財政白書(内閣府)
未来工学研究所 議論の広場 『未来世代基金』の創設
消費者物価指数(Cpi), 総務省
2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)12月分及び2023年(令和5年)平均, 総務省, 令和6年1月19日
内閣府ホームページ 第28回税制調査会 総28-6(案とれ)
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