ロボット手術(ダビンチ)のメリット・デメリット【無駄に費用が高いだけ!?】

ロボット手術メリット・デメリット

近年、手術支援ロボットを用いた手術は急速に増えています。

ロボット手術の普及、適応の拡大に関しては実は外科医の中でも意見が割れています。

なぜ意見が割れるのかはロボット手術のメリット・デメリットをきちんと理解するとみえてきます。

ロボット手術のメリット・デメリットを語る場合は腹腔鏡手術と比較するべきです。それなのに、web検索するとなぜか開腹手術と比較している記事がほとんどであり、ロボット手術が過大評価されています。

本記事の内容
  • ロボット手術と腹腔鏡手術と開腹手術についてわかりやすく解説
  • ロボット手術と腹腔鏡手術と開腹手術のメリットとデメリットを比較
  • ロボット手術のメリットとデメリットを適正に評価

本記事は、ロボット手術に少しでも興味・関心のある全ての方に向けた内容になっています。

外科医aru

旧帝大医学部卒業後、田舎の忙しい基幹病院で研修医として就職。そのまま外科医となり、2度の転勤を経験。最新のロボット手術にも携わり、手術執刀経験は500件超え。夜間緊急手術も大好きなバリバリの外科医でした。

ロボット手術は個々の手術内容ごとに、本当にメリットがデメリットを上回る場合に適応とすべきです。しかし、あまり議論されないままに適応が拡大しているように見受けられます。

従来の腹腔鏡手術で行った方がいい手術に対してロボット手術が行われている現状があります。

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手術方法の分類

腹部手術の分類

俗に「ロボット手術」と言われているのは、「ロボット支援下手術」のことです。

ロボット支援下手術は、腹腔鏡手術をロボットの助けをかりて行います。腹腔鏡手術の一種です。

あくまでも、ロボットの「助けをかりる」のであって操作は人間が行っています。

ロボット支援下手術のメリット・デメリットを理解するためには従来の腹腔鏡手術と比較する必要があります。

本記事では以降、ロボット支援下手術のことを「ロボット手術」、手術ロボットを用いない従来の腹腔鏡手術のことを単に「腹腔鏡手術」と書くことにします。

まずはそれぞれの腹部手術の方法についての概要を解説します。

開腹手術

開腹手術はその名の通り、お腹を開けて、直接臓器を手で触りながら(もちろん手袋はしています)、直接目で見ながら行う手術です。

腹部手術で最も古くから行われています。

世界で最初の計画された開腹手術として知られているのは、1809年12月27日に Ephraim McDowell が行った卵巣嚢腫摘出術です。

なんと200年以上の歴史があります。

開腹手術は腹腔鏡手術よりどうしても傷が大きくなります。しかし、「直接臓器を手で触りながら」ではないとできないことは多くあり、今でも数多く行われています。

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は開腹手術と異なり、臓器を手で触らず「鉗子」で手術操作を行います。

また、お腹の中を直接目では見ずに「内視鏡」でお腹の中を画面に映して、映像を見ながら手術を行います。

「ポート」という筒を小さな傷から体に挿入して、そこからマジックハンドのような「鉗子」(下のイラスト)を用いて体内の操作を行います。お腹は炭酸ガスで充填して膨らませて、手術スペースを確保します。

鉗子
腹腔鏡手術の鉗子

開腹手術では大きな傷が必要でしたが、小さな複数の傷で手術が行えるため術後の疼痛が軽減されます。

また、開腹手術では立ち位置によっては術野が見えにくいため、術野を全員で共有できないことがあるのですが、腹腔鏡の場合内視鏡の映像をみんなで共有しながら手術ができます。手術の安全性につながります。

お腹を炭酸ガスで充填して膨らませて「気腹」することでお腹の中が陽圧になります(気腹圧)。そのことで小さな出血が抑えられるというメリットもあります。

ロボット手術

2024年現在最も普及している手術用ロボット「ダビンチ( da vinci )」を使ったロボット手術について解説します。

ロボット手術は腹腔鏡手術の一種ですので、大まかなやり方は似ています。

腹腔鏡手術と同様に、「ポート」という筒を小さな傷から体に挿入します。

腹腔鏡手術で用いる「鉗子」のかわりに「ロボットアーム」に「インストゥルメント(ロボット用の鉗子)」を着けて、ポートから体内に入れて、「気腹」して「内視鏡」でお腹の中を見ながら手術操作を行います。

ロボットアームやインストゥルメント、内視鏡を操作するのは人間です。

腹腔鏡手術では鉗子や内視鏡を直接人間が操作しますが、ロボット手術では「コンソール」と呼ばれるロボットの司令塔に術者が座って、ロボットを操ります。

それぞれの手術方法の比較

手術方法開腹手術腹腔鏡手術ロボット手術
傷の大きさ(痛み)大きい極めて小さい小さい
手術時間短い普通長い
出血量やや多い少ない少ない
術者ストレス少ないやや多い極めて少ない
精密な操作可能可能得意
大胆な操作得意苦手苦手
費用安価高価極めて高価
※一般的な中難易度手術を想定

各項目について解説します。

傷の大きさ

傷が大きいほど術後の痛みは大きくなり、退院や社会復帰までの期間が伸びる傾向にあります。

最も普及している手術支援ロボット da vinci(ダヴィンチ) の最小ポート径は8mmです。

腹腔鏡手術であれば基本5mm、最小だと3mmのポートもあります。

つまり、ロボット支援下手術の方が一つ一つの傷は大きくなる傾向にあります。

2023年から発売された最新のダヴィンチSPでは25mm(結構大きい、、)の傷一つでできるようになったようですが、まだ普及はしていないです。

意外かもしれませんが、傷の大きさは腹腔鏡手術<ロボット手術<<開腹手術となります。

手術時間

腹腔鏡手術で問題なく行える手術(ほとんどの手術)でロボットを用いる場合、手術中のセッティングや撤去が必要となり時間を要します。

通常の腹腔鏡手術で問題なく行える手術にロボットを用いると手術時間は長くなる傾向にあります。

手術時間の延長は傷の感染のリスクを増加させるなどの弊害があります。

開腹手術では大胆な操作が可能となり、同じ内容の手術で比較すると腹腔鏡やロボットより手術時間は短縮できます。

手術時間は場合にもよりますが、一般的には、開腹手術<腹腔鏡手術<ロボット手術となります。

出血量

腹腔鏡手術とロボット手術は、すでに述べた通り気腹圧により小さな出血が抑えられるというメリットがあります。

出血量は一般的には、腹腔鏡手術=ロボット手術<開腹手術です。

ただし、大きな出血を起こした場合の止血は開腹手術が有利です。

手術中に大きな出血が起きた場合は腹腔鏡手術やロボット手術を行なっていても開腹手術へ移行する場合があります。

術者ストレス(操作性)

ロボット手術の最大のメリットは術者ストレスの軽減です。

腹腔鏡手術はまっすぐな鉗子を用いますので動きの制限があります。

ロボットの鉗子には関節があり、動きの自由度が高いです。精密な操作が可能となります。

通常の腹腔鏡手術では難易度が高かった手術が安定して行えるようになったロボットの功績は大きいです。

精密な操作により、神経温存などがしやすくなりました。

前立腺の手術、肛門に近い直腸の手術、食道に近い胃の手術などはロボット手術が有利となります。

また、ロボット手術では術者は座って手術が可能であり、それも術者ストレスの軽減につながります。

費用

ロボット手術は腹腔鏡下手術に比較して大きな費用がかかります。

インストゥルメント(ロボット用の鉗子)には使用回数の制限があります。

1本約40万円などで10回の使用制限。それを1回の手術で3〜6本程度使用します。腹腔鏡用の鉗子は1本あたり10万円程度のものが多く使用回数制限はありません。

他にも1回のみ使える使い捨ての高額なデバイスも利用することがあります。

一回あたりのロボット手術で驚くほどの費用がかかります。

ロボットの本体代(約2〜3億円)やメンテナンス費用(年間約2〜3000万円)も高額です。

ロボット手術は本来はそのメリットが大きくなる場合のみに限定すべきです。

しかし、現状ろくに議論されていません。

外科医aru

この費用のほとんどは税金から出ています。これからどんどんロボット手術は普及しそうです。大丈夫でしょうか?
医療費は増大する一方です。
気になる方は以下の記事を参照してください。

腹部手術・入院となるとほとんどの場合に高額療養費制度の対象となります。患者様の負担額はそう大きくはなりません。下の画像を参照してください。

しかし、その分の多額の費用が税金から出ています。

給与明細を確認した時、税金が高いと感じたことはありませんか?税金が高い理由に医療費の増大があるのです。

画像はタッチ・クリックで拡大できます

出典:高額療養費制度を利用される皆さまへ, 厚生労働省

ロボット手術のメリット

ロボット手術のメリットは術者ストレスが少なく、精密な操作が可能なことです。詳しく解説していきます。

開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術どの手術を行うかは各患者様の状況によります。どの手術が適応となるかは、高度な判断が必要で、外科医が行います。施設ごとの経験や考え方も加味されて判断されているため、施設ごとにも異なります。

現状では腹腔鏡手術の適応条件とロボット手術の適応条件はほぼ同様としている施設が多いです。

ロボット手術が保険適応となっている手術はロボット手術を勧められることが多いと思います。

ロボット手術の保険適応はどんどん拡がっています。

外科医aru

筆者を含む、ロボット手術適応拡大慎重派の外科医(少数派)はこのことに疑問を抱いています。

適応条件が同様な腹腔鏡手術よりロボット手術が優れている点が、本当のロボット手術のメリットです。

web上の多くのコンテンツは傷の大きさをロボット手術のメリットとして挙げていますが、実はそれはメリットではありません。

手術方法腹腔鏡手術ロボット手術
傷の大きさ(痛み)極めて小さい小さい
手術時間普通長い
出血量少ない少ない
術者ストレスやや多い極めて少ない
精密な操作可能得意
大胆な操作苦手苦手
費用高価極めて高価
※一般的な中難易度手術を想定

すでに述べてましたが、ロボット手術の最大のメリットは術者ストレスの軽減です。

術者は「コンソール」でロボットを操作するのですが、これは開腹手術や腹腔鏡手術とは一線を画します。

ロボットを用いた操作中は患者様に直接触れないため、手術用のガウンや手袋する必要がありません。また、座った状態で手術ができます。

「コンソール」では直感的な操作ができて、精密な操作が可能となります。

術者が、腹腔鏡手術よりも楽に手術ができるのがロボット手術のメリットです。

ロボット手術のデメリット

ロボット手術適応拡大を慎重に行うべきと考えられるのはそのデメリットが理由です。

腹腔鏡手術と比較して傷の大きさが大きく、手術時間が長く、費用が非常に高いことがデメリットです。

デメリットにきちんと向き合うことが大切だと思いますが、なぜか医療現場はここに目を瞑っています。

手術方法腹腔鏡手術ロボット手術
傷の大きさ(痛み)極めて小さい小さい
手術時間普通長い
出血量少ない少ない
術者ストレスやや多い極めて少ない
精密な操作可能得意
大胆な操作苦手苦手
費用高額極めて高額
※一般的な中難易度手術を想定

最も気を使うべき患者様の体への負担の部分である「傷の大きさ」が腹腔鏡手術に劣っています。

また「手術時間」が一般的な大多数の手術では腹腔鏡と比較して劣ることが多い現状です。

費用に関して言えばかなり高くつきます。

今まではロボット手術は領域を限定して保険適応となっていました。

外科医aru

以前まではロボット手術の保険適応は合理的な使い方のみに限定されていました。

しかし、近年ロボット手術の保険適応が拡がり、腹腔鏡手術で問題なくできる手術にまでロボット手術が適応となってきています。

保険適応であれば患者様の金銭的負担は減りますが、税金の負担は増えます。

これはいかがなものでしょうか。

ロボット手術まとめ

通常の腹腔鏡手術では難しいが、ロボットの力をかりることで難易度の下がる手術もあります。

こういった手術には積極的にロボット手術を行なっていくべきだと思います。

しかし、通常の腹腔鏡手術で問題ないものはロボットを用いないべきであると考えます。

外科医aru

(医療関係者向け)

TAPP(ラパヘル)や Lap-C(ラパコレ)までロボットで行うのは度がすぎると思います。「練習」「外科医の道楽」としか思えません。

通常の腹腔鏡手術で問題ない手術にロボットを用いると傷の大きさ、手術時間の延長、費用の増大とデメリットが術者ストレス軽減のメリットよりも目立ちます。

しかし、このことは議論されずにどんどんロボット手術の適応が拡がっています。

適切にロボット手術を活用できるように議論することが必要です。

ロボット手術を勧められた患者様で、傷の大きさが気になる方は腹腔鏡手術の適応に関しても担当医に相談してみるといいかもしれません。きっと丁寧に説明してくれます。その上でやはりロボット手術がいいと思われることもありますし、腹腔鏡手術に変更になることもあるでしょう。嫌な顔はされないと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

ロボット手術メリット・デメリット

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この記事を書いた人

地方旧帝大医学部卒業。外科医を全力で務めあげたのちに、全力で脱医局、転職を果たしました。医師の転職の素晴らしさに気づき、同じように人生がより良いものになる医師を増やしたいとの思いで情報発信しています。

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