外科医あるある:学会・論文が嫌い
「学会発表がめんどくさい」
「こんな学会発表に意義があるの?」
「論文執筆により寝不足になってしまう」
このようなことを考えている医師は多いと思います。
医師は日常的に学会発表や論文執筆などの学術活動に時間を割いています。
そんな医師の学術活動について、医療関係者はもちろん、医療関係者ではない方にもわかりやすいように解説します。
医師の学会発表や論文執筆について、
- 何をしているのか
- 本来の意義
- 問題点
- やりたくない場合の逃げ方
を解説します。
旧帝大医学部卒業。外科医となり、手術執刀経験は500件超え。夜間緊急手術も大好きなバリバリの外科医でした。論文2本筆頭著者で掲載。全国学会での発表2回、地方学会での発表は8回経験しています。
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はじめに
もちろん医療の発展につながる医師の学会発表や論文執筆もあり、それは推進されるべきです。
しかし、多くの学会発表や論文は医療の発展のためにというより学会、論文そのものが目的となっているように思います。
ドラマ「ブラックぺアン」でも「インパクトファクター」稼ぎのために論文を書くという、実際にある話が出てきます。
多くの学会発表、論文執筆を経験してきた筆者がなぜ医師の学術活動の中には残念なものが含まれているのか、実情を解説します。
web上で他にない、現場の実情に沿った「医師の学術活動」についてのディープな情報をわかりやすく解説していきます。
学会発表とは?
学会発表:口頭発表とポスター発表
学会発表には主に「口頭発表」と「ポスター発表」があります。
口頭発表
口頭発表はいわばプレゼンです。
Power point を用いてスライドを作成して、自分が経験した症例についてや多数の症例から得た統計などについてプレゼンを行います。
プレゼンの後に質疑応答の時間がありそこで質問に答えます。
「座長」と呼ばれる司会が設けられ、進行を行います。
ポスター発表
ポスター発表は作成したポスターを公開する発表方法です。
貼りっぱなしの場合と、ポスター前で説明を行い、質疑応答の時間が設けられる場合があります。
学会発表の意義
学会発表は、医師が自分の研究成果や臨床経験を共有するための場です。
全国学会や地方会など、規模や専門分野ごとにさまざまな学会があります。
学会発表を通じて、新しい知見や技術を学ぶだけでなく、自分の研究がどのように評価されるかを知ることができます。
学会発表の準備
学会発表の準備は大変ですが、その過程で多くのことを学べます。
まず、発表するテーマを決め、必要なデータを収集します。その後、プレゼンテーションを作成し、何度も練習を重ねます。
発表の際には、聴衆の前で自信を持って話すことが求められます。
論文執筆とは?
論文執筆とは、学術雑誌や学会誌に自分の症例報告、症例の統計や研究成果を掲載してもらうために論文を書くことです。
論文執筆の意義
論文執筆も学会発表同様、医師にとって重要な活動です。
論文執筆は、研究テーマの設定、データ収集、結果の分析、考察の執筆という流れで進みます。
論文を書くことは、自分の研究を深く理解し、それを他の医師や研究者と共有するための重要な手段です。
有名な論文掲載雑誌
医学系の学術雑誌の有名どころは、
- The New England Journal of Medicine(NEJM)
- The Lancet(Lancet)
- The Journal of the American Medical Association(JAMA)
医療関係者じゃなくても聞いたことがあるという方もいるのではないでしょうか。
一般的な臨床医がこのような有名雑誌の自分の論文を載せるのは夢のまた夢です。
インパクトファクターについて
学術雑誌の影響力の指標としてインパクトファクターという言葉があります。
特定の1年間において、ある学術雑誌に掲載された論文が平均的にどれくらい頻繁に引用されているかを示す尺度です。
数字が大きいほど引用が多く、影響力が大きいことになります。
超有名雑誌のインパクトファクターは
- NEJM 158.5(2023年公開)
- Lancet 202.7(2022年公開)
- JAMA 120.7(2023年公開)
日本の英文学術雑誌だと
- 日本癌学会の Cancer science 4.4(2018年公開)
- 日本外科学会の Surgery Today 2.5(2021年公開)
- 日本内科学会の Internal Medicine 0.96(2020年公開)
医師の学会発表や論文執筆の本来の意義
医学の発展
医師の学会発表や論文執筆の本来の意義は「医学の発展につなげること」です。
- 新たな治療方法
- 複数の治療方法がある疾患に対する最も有効な治療方法
- 珍しい疾患の診断や治療方法
- 思わぬ合併症
などについて自分の経験や研究結果について論文にして発表することで、他の医師や研究者と共有することで医学の発展に繋がります。
各学会による診療ガイドラインも発表された論文をもとに作成されています。
発表者・執筆者の成長
学会発表や論文執筆は大変ですが、その過程で多くのことを学べます。
必要なデータを収集する過程で多くの論文に触れて知識が増えます。
発表や執筆を通してその知識をアウトプットして自分のものにできます。
医師として成長して日々の診療もより良いものになります。
医師の学会発表や論文執筆の問題点
大きな問題点は以下の2つです。
- 本来の意義を見失っている
- 違法労働の温床になっている
本来の意義を見失っている
医学の発展や自信の成長といった本来の意義が失われている学会や論文が多いという問題点があります。
「学会のための学会」「論文のための論文」が非常に多い。
その理由は以下の通り、
- 旅行気分の全国学会
- 地方学会発表の押し付け合い
- 論文が資格の取得や維持に必要
- 論文が昇進や研究資金の獲得に必要
それぞれ解説します。
もちろん本来の意義を見失わずに、質の高い学会発表や論文執筆に臨んでいる医師もたくさんいます。
旅行気分の全国学会
全国学会は日本全国から医師が集まって発表する大きな学会です。
人気の学会開催地は北海道や沖縄。旅行気分です。
全国学会は平日開催が多く、学会発表という大義名分で仕事を休めます。
学会のついでに旅行に行くならいいですが、旅行に行くための学会発表が多いのが事実です。
人気の開催地だと学会にみんなで行きたがります。病院に残された人だけでは診療が回らなくなることもあります。
病院に残されると大変。そのこともあって余計にみんな発表したがります。
発表したい内容があるから学会発表するのではなく、学会に行きたいから学会発表する「学会のための学会」になってしまっています。そのため、質の低い発表もあるが実情です。
発表しなくても「発表を聞きに行く」体裁で発表者と一緒についていく場合もあります。
地方学会発表の押し付け合い
全国学会はみんなこぞって発表したがりますが、地方学会は正反対です。
地方学会は休日開催が多く、近場で開催されます。
休日返上してまで発表したいと本心から考えている医師は少数です。
しかも地方学会はその数が異常に多いです。
地方学会は発表者が思うように集まらないことがほとんどで、開催者が各病院に発表者を出すように依頼をかけます。
その結果、地方学会発表の押し付け合いになります。
発表したい内容があるから学会発表するのではなく、学会側に依頼されて発表する「学会のための学会」になっています。医師の無駄な仕事が増えて長時間労働の原因になっているのが実情です。
押し付けられた学会発表です。
やっつけなので、以前に発表した内容を少し変えて発表することもあります。
多すぎる地方学会を減らすべきです。
論文が資格の取得や維持に必要
一部の専門医取得や博士号の取得には論文を執筆する必要があります。
中には専門医資格の維持に論文執筆が要求される場合もあります。
論文を書きたい内容があるから書くのではなく、資格の取得や維持のために論文を書く「論文のための論文」が非常に多いです。そのため質の低い論文もあるのが実情です。
論文が昇進や研究資金の獲得に必要
高いインパクトファクターを持つ雑誌に論文を掲載することが、昇進や研究資金の獲得に直結するため、無理に論文を書こうとするケースが多いのです。「論文のための論文」です。
このことが質の低い研究を生み出し、長期的には医療界全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに深い闇について、
医局の教授の部下が、教授の実績のために論文を書かされているケースなどもあります。他人の業績のための論文執筆です。
とんでもないパワハラ。
論文の捏造(ねつぞう)も度々行われています。本末転倒です。
違法労働の温床になっている
無駄なことが医師の長時間労働に加担している
「学会のための学会」「論文のための論文」は、はっきりと言って無駄です。
この無駄のために医師は非常に多くの時間を費やしています。
こちらの記事を読んでいただければどの程度の負担かわかります▼
違法に「自己研鑽」にされてタダ働き
押し付けられた学会発表の準備や、他人の業績のための論文執筆はやっていて悲しくなる仕事です。
これらに費やす時間は「自己研鑽」の扱いにされることがほとんど。もちろん無給です。
本来は上司からの命令で行う学会発表の準備や、論文執筆は労働時間であると厚生労働省が言っていますが、現場では無視されています。
「学会のための学会」「論文のための論文」は、違法な労働の温床になっているわけです。
無駄な学会や論文をなくせば多少は医師の長時間労働問題が改善しますが、なぜか誰もそれをやらない。
そういった当たり前のことができないので、医師の長時間労働の問題を改善させようとして行われた「医師の働き方改革」は大失敗して、医師の労働環境はさらに悪化しました。
問題点の解決のためには
本来の意義を見失った「学会のための学会」「論文のための論文」は無駄です。
むしろ学会や論文の質を下げており、医学の発展という本来の目的と真逆の方向へ行っています。
この無駄に巻き込まれた医師が違法な長時間労働を強いられているということも大きな問題です。
問題の解決方法は非常にシンプルです。
無駄な学会や論文をなくすことです。
- 全国学会のリモート化
- 地方学会の数の適正化
- 資格取得・維持に必要な論文の数の適正化
- 一部論文の作成をAIに任せる
これらで無駄をなくしながら、医学の発展を加速できます。
全国学会のリモート化
旅行気分の全国学会で日常の診療に支障をきたしていては本末転倒です。
コロナ渦の時のようにフルリモートにするか、発表者だけ現地参加にするかなどの工夫が必要です。
地方学会の数の適正化
押し付け合いになる分の地方学会はなくして適正化するべきです。
当たり前のことなので、なぜそれがなされないのか不思議でしょうがない。
資格取得・維持に必要な論文の数の適正化
論文ではなく臨床(患者の診断や治療)を頑張りたい医師も多数います。論文が嫌いで優秀な医師は多数派。
臨床が優秀な医師が、嫌いな論文に時間を無駄に費やすことは社会の大損害です。その分患者が救えなくなることもあります。
一部論文の作成をAIに任せる
リアルワールドデータ(※)を用いてAIが論文を書けば、人間が書くよりも正確な論文が書けます。
バイアスを除くことができるからです。
人間が頑張って論文を書かなくていい時代が来るはずです。
医学の発展を加速することができます。
(※)リアルワールドデータ とは
日常生活で得られる人の健康に関わるデータです。 例えば、診療録(カルテ)や処方箋、ウェアラブルデバイスのデータがリアルワールドデータと呼ばれており、医薬品などの研究・開発、公衆衛生、医療経済など幅広い分野で利用されています。
意味のない学会・論文からの逃げ方
地方会の学会発表を割り当てられそうになってなんとか回避する。しかし、結局その後「しばらく学会発表してないよね」とすぐに学会発表を押し付けられる。
専門医取得のために、臨床が忙しいのに論文を書かかなくてはいけなくて寝不足になる。
こんなことに悩む専攻医は多いのではないでしょうか。
学会発表を断れば自分の評価が下がって、やりたい臨床の仕事をやらせてもらえなくなってしまうので最終的には上司に従うしかないですよね。
論文も専門医取得に必須だと逃げられない。
本当に現在の環境での評価を気にしながら、専門医を取得する必要があるのか、考えたことがありますか?
本当に今の環境にこだわる必要があるのか、「転職の検討」をして自分の価値を確かめると、今のストレスフルな状況から簡単に逃げて、今よりいい生活を手に入れることができるきっかけを掴めるかもしれません。
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医師の学会発表や論文執筆 まとめ
学会や論文の本来の意義は、
- 医学の発展
- 発表者・執筆者の成長
です。
これらを見失わない学会や論文もたくさんありますが、残念ながら「学会のための学会」「論文のための論文」が多い実情です。
- 旅行気分の全国学会のせいで日常診療に支障をきたす
- 無駄な地方学会で医師が疲弊してしまう
- 資格取得に必要でやっつけ仕事の論文が発表される
- 医局のインパクトファクター稼ぎのための論文の代筆や捏造
質の低い学会発表や論文が蔓延して医学の発展を阻害しています。
発表者・執筆者の成長に関しても、
真面目に臨床をしていたら日頃から論文を確認して、治療でアウトプットする癖がつくのでいちいち学会発表や論文執筆をする意義が薄れるのも事実。
そのような医師の学会発表や論文執筆は免除するべきです。
もちろん真面目に学術活動にとり組んでいる医師もいます。学術活動はそのような医師とAIに任せて、嫌々やっている医師は退くべきです。
学会、論文が本来の意義を見失わないように適正化され、新しい技術を用いてより効率的になるように願うばかりです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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