日本の国民皆保険制度は1961年に始まり、しばらくは素晴らしい制度と思われていました。
しかし現在は、「民主主義」の政治システムと「少子高齢化」が重なり「癌」のように日本を侵しています。
なぜこのようなことになったのか、詳しく解説していきます。
旧帝大医学部卒業後、田舎の忙しい基幹病院で研修医として就職。そのまま外科医となり、2度の転勤を経験。最新のロボット手術にも携わり、手術執刀経験は500件超え。夜間緊急手術も大好きなバリバリの外科医でした。
国民皆保険制度(保険医療制度)の特徴
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日本の国民皆保険制度(保険医療制度)の特徴は以下のとおりです。
わかりやすく解説するために、上図と言い方を変えて順番も入れ替えていますが内容は同じです。
- 全国民加入の公的医療保険
- 極めて安い患者負担で高い質の医療を提供
- 保険料では足りないため税金も投入
- フリーアクセス
いい点・悪い点を含めて解説します。
全国民加入の公的医療保険
日本の国民皆保険制度は、全ての国民が強制的に公的医療保険に加入させられて、保険料を支払うことでお互いの医療費を負担し合う制度です。
そのため多くの治療が必要で、入院や手術により医療費が高くなってしまう人でも、少ない金銭負担で医療を受けることができるのです。
そのために、病院とは縁がない人も強制的に保険料を支払うことになってしまう側面があることも忘れてはいけません。
医療を受ける人が増えたり、高額な医療が普及したりすると、国民全員(特に現役世代)が高い保険料の負担を迫られることになります。
全国民が加入する公的医療保険制度は世界的にみても少数派です。
極めて安い患者負担で高い質の医療を提供
日本での医療水準は世界保健機関(WHO)の調査によると世界一とされています。それが極めて安く提供されています。
低い患者負担率
医療費に対する患者負担率は基本的に1割〜3割です。
他、生活保護受給者は無料。身体障害者手帳の所持者も条件により無料。指定難病の治療は無料。
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「高額療養費制度」により患者負担額には上限あり
「高額療養費制度」により月額の患者負担額には上限があります。一定額を超えた分は全て公費からの負担になります。
非常に手厚い保険制度ですが、諸刃の剣です。国民の保険料と税の負担が膨れ上がっています。
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出典:高額療養費制度を利用される皆さまへ, 厚生労働省
非常に安い「診療報酬」
日本は「診療報酬」が国によって定められています。医療行為の値段は国が決めています。
そして、この「診療報酬」は非常に安く設定されています。
例えば、虫垂炎(一般には「盲腸」と呼ばれている病気)の入院医療費を見てみると、日本では約31万円なのに対して、アメリカの私立病院では約599.5~816.5万円かかると言われています。外来療養費も格安です。
アメリカ | イギリス | フランス | ドイツ | 日本 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
外来医療費 | 胃腸炎初診 | 公立病院 | 約16,000~ 32,000円 | 約12,000円 | 約3,000~ 10,000円 | 約37,000円 | 2,880円~ |
私立病院 | 約32,000~ 44,000円 | 約32,000円 | 約3,000~ 18,000円 | 約49,000~ 74,000円 | |||
入院医療費 | 虫垂炎 | 公立病院 | 約209万円以上 | 約35万円 | 約63万円 | 約25万円 | ※実際の患者負担額は高額療養費制度によりもっと少ない | 約31万円~
私立病院 | 約599.5~ 816.5万円 | 約62万円 | 約72万円 | 約37万円 |
世界の医療と安全(東京海上日動火災保険株式会社)2019年
公的医療保険って何だろう, 厚生労働省
医科点数表
保険料では足りないため税金も投入
2021年の日本の年間医療費は45兆359億円でした。国民一人当たり年間35万8800円です。
そのうち患者負担分は5.2兆円(11.6%)、保険料でまかなうことができたのは22.5兆円(50.0%)です。
残りの約17.3兆円(38.4%)は税金から捻出されています。
「極めて安い患者負担で高い質の医療を提供」するためには多額の税負担が必要です。
保険料も強制徴収であり、ほぼ税金ととらえて差し支えありません。医療費の約9割(約40兆円)が税金なのです。
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フリーアクセス
日本では患者様が自分で医療機関を選ぶことができます。
どこの医療機関でもどの医師の医療でも受けられる制度のことを「フリーアクセス」と言い、日本の公的医療保険制度の特徴と言えます。
日本では当たり前すぎて意識したことがない人が多いかもしれません。しかし、最初は登録された指定医療機関を受診することになっている国も多くあります。
評判や治療方針によって自分の意志で病院を選び、希望する治療が受けられることは、患者様にとって非常に大きなメリットとなることもあります。
ただし、正しい医療知識がないと、デメリットになります。どの医療機関を選んでいいか分からなかったり、詐欺医療を行なっている病院に何も知らずに受診してしまったりします。
諸外国との公的保険制度の比較
イギリス | フランス | ドイツ | アメリカ | 日本 | ||
公的保険の対象 | 対象 | 全国民 | 全国民の99% | 全国民の85% | 65歳以上の高齢者、障害者、低所得者のみ | 全国民 |
特徴 | 国民医療制度(NHS)により、原則無料で医療が受けられる | 職域ごとに強制加入の様々な保険制度がある | 一般労働者、年金受給者、学生を対象とした一般制度と、自営業者を対象とした農業者疾病保険がある | 現役世代への医療保険は民間保険が中心 | 国民皆保険制度。 市町村が運営する国民健康保険、または職域ごとの被用者保険に加入する | |
医療機関へのアクセスのしやすさ | 病院を受診するためには、原則として登録医師(GP)の紹介が必要 | かかりつけ医の紹介なしに、他の医師の受診をしないように制限 | フリーアクセス | フリーアクセス。民間保険によっては、かかりつけ医への訪問を義務付ける場合がある | フリーアクセス | |
医療費 | 総医療費の対GPD比 | 9.8% | 11.2% | 11.2% | 16.9% | 10.9% |
一人当たりの医療費 | 4,070ドル | 4,965ドル | 5,986ドル | 10,586ドル | 4,766ドル | |
臨床医数、急性期病床数 | 人口1,000人あたりの臨床医数 | 2.7人 | 3.4人 | 3.6人 | 2.4人 | 2.2人 |
人口1,000人あたりの急性期病床数 | 2.7床 | 3.5床 | 5.7床 | 2.7床 | 8.1床 |
諸外国の医療保険制度の比較, 関西広域連合
OECD HEALTH Statistics 2019
公的保険の対象や医療機関へのアクセスのしやすさについては先に述べた通りです。
ここでは、医療費や医師の数、病床数について比較します。
日本は諸外国に比べて医師は少なく、人口1,000人あたり2.2人です。
しかし、病床数は極めて多く、人口1,000人あたり8.1床です。
「病床数が多い」=「入院患者数が多い」ということです。
日本は極めて多い入院患者数に対して、少ない医師で対応しており、医師1人あたりの労働負担は極めて大きいと言えます。
また、本来は病床数が多く、入院患者数が多い場合は医療費も大きくなってしまうはずです。しかし、日本の医療費は総医療費の対GPD比10.9%、一人当たりの医療費4,766ドルとイギリスに次いで低くなっています。
日本の医療の単価は非常に安く設定されていることがわかります。
諸外国と比べて医療の単価が安いということは、医師の給与も安いということです。日本の医師は極めてきつい労働を、安い給料(時給)で行なっているのです。
日本での医療水準は、WHOの調査によると、世界一とされていますが、一方で医師の年収と労働条件は、世界の先進国の中では最低水準と言われています。
日本の国民皆保険制度の問題点
日本の国民皆保険制度は問題点だらけの制度です。
大事なところに絞っても7つもあります。
- 医療の安売り(医師を低賃金でこき使う)
- セルフメディケーションが普及しない
- 過剰医療につながる
- 医療費の増大に歯止めがかからない
- 保険料収入の減少
- 世代間格差の拡大
- 制度が適応される医療行為の範囲がおかしい
それぞれ解説していきます。
医療の安売り(医師を低賃金でこき使う)
先に述べた通り、日本は諸外国と比較して、
- 病床数が非常に多い
- 医師が少ない
- 医療の単価は非常に安く設定されている
このことから、
医師1人あたりの労働負担は極めて大きいが、労働単価は低くなります。
低賃金で医師をこき使っているのです。
一部の大病院では、コンビニのアルバイト以下の時給で働いている医師もいます。
医療の安売りです。これは国民にとって一見いいようにも思えますが、維持ができなければ意味がありません。
バランスが悪いと制度そのものが崩壊してしまう危険性があります。
日本での医療水準はWHOの調査によると世界一とされていますが、一方で医師の年収と労働条件は世界の先進国の中では最低水準と言われています。大事なことなので2回目です。
セルフメディケーションが普及しない
セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とWHOは定義しています。
- 毎日の健康管理の習慣が身につく
- 医療や薬の知識が身につく
- 医療機関で受診する手間と時間が少なくなる
- 通院が減ることで、国民医療費の増加を防ぐ
質の高い医療の安売りが行われている影響もあり、諸外国に比べてセルフメディケーションが遅れています。
安いので医療機関任せでいいというのが日本のやり方です。
最終的にはプロである医師にかかるのがいいです。しかし、何でもかんでもというのは非効率です。
セルフメディケーションが遅れ、日本人は医療の正しい知識があまりに乏しいです。医師も病状説明の時に困ります。
間違った知識を持つ人も多いです。そんな人に病気や治療のことをきちんと説明するのは非常に大変です。
読んでくださっている方は驚くかもしれませんが、検査したら何でもわかると思っている人が非常に多いです。
また、病院に来たら何でも治ると思っている人も多いです。
医療はあくまで病気を治すサポートであって、治療の中心は患者様ですが、なかなか理解を得にくいです。
詐欺まがいの医療が後をたたないのも、医療の正しい知識があまりに乏しい人が多いからです。簡単にだませてしまいます。
日本はセルフメディケーションの普及が課題ですが、国民皆保険制度によりそれが阻まれている構造です。
過剰医療につながる
安いので何でも病院にかかってしまえばいい、検査してしまえばいい、薬をたくさんもらっておけばいい、と必要のない「過剰医療」をうんでいます。
詳しくは以下の記事を参照してください。
日本は医師不足です。先に示した諸外国との比較表の通り、人口1,000人あたりの臨床医数が少ないです。
加えて、医療の安売りのせいで「過剰医療」が行われている「患者過剰」と言える状況です。その結果として、病床数は極めて多くなっています。
「医師不足」+「患者過剰」で医師の労働負担は極めて大きいのです。長時間労働を行なっています。
筆者は急性期病院時代は、月平均160時間、最高250時間の時間外労働を行なっていました。過労死ラインは80時間です。
医師の長時間労働を是正するべく「働き方改革」が行われましたが、「医師不足」も「患者過剰」も改善策なし。
結果さらに医師の待遇が悪化しました。
医療費の増大に歯止めがかからない
医療の単価が安いことで、かえって医療費の増大につながっています。
セルフメディケーションが普及せず、「過剰医療」が行われるためです。
さらに、高齢化社会によりどんどん医療費は増大します。
年齢を重ねると体の不調や病気は起きます。
また、リタイアした高齢者は医療費負担が安く設定されていて、かつ、時間があるためいつでも病院を受診できるので、どんどん受診するという傾向があります。
リタイアした高齢者は医療費負担が安く設定されていることで「過剰医療」が行われて、医療費が増大している事実があります。
保険料収入の減少
少子高齢化の影響で、高齢世代に対する現役世代(働いて税金を納める世代)の割合は減少しています。
- 高齢化で医療費は増大。
- 少子化で保険料や税の収入はどんどん減少。
という構造になっています。
政府は現役世代に高い保険料や税金の負担を強いて、何とか保険料収入の減少を抑えようとしています。
先に「過剰医療」「患者過剰」を抑えるべきだと思いませんか?
しかし、民主主義では政治家は「票」を集めなければなりません。今、多いのは高齢世代です。高齢世代ばかりにいい顔する必要があり、医療の政策は歪んでいます。
世代間格差の拡大
民主主義の限界による、医療政策や社会保障制度の歪みです。
保険料・税の負担について、高齢世代と現役世代の間に尋常ではない格差があります。
「年齢間格差」ではなく「世代間格差」です。現在の高齢世代が現役世代であったときに今まで収めてきた分を考慮しての格差です。つまりあってはならない格差です。
2008年時点での高齢者と、若者の生涯受益格差は、1億2000万円と言われています。(税・社会保障全体の額)
現役世代が高齢世代に搾取されている状況です。悪いのは、そうなるように設計された制度です。
1999年の段階で、日本は海外と比べても世代間格差が大きいかったのです。今ではもっと大きいと思われます。
皆保険制度の適応される医療の範囲がおかしい
もう「寿命」がきてしまった方への延命治療は非常に高額な医療なのですが、保険適応です。
半ば、虐待のようで、意義の薄い医療に大量の公費が投入されています。「過剰医療」の一種です。
なぜこのようなことが行われているか。
- 日本の独特な死生観
- 死への準備をしない文化
- 「寿命」の存在を認めない司法
日本には文化と仕組み上ほぼ「寿命」が存在しないのです。
死生観や文化の話は深いので別記事を追加します。
医療に対する司法の酷さについては以下の記事を見てください!長い記事ですが、「寿命」を認めないことについても具体例を挙げて解説しています。
いずれにせよ、意義の薄い医療は公費で行うべきではないように思います。
なのに、非常に大事な「妊娠・出産」は保険適応外です。
その他、保険適応・非適応について、おかしなことがたくさんあります。
もう一つ大事なものを紹介します。
自国では高額で医療を受けられない外国人が、治療のために日本に移住して、日本の税金を使って治療している
という恐ろしい問題もあります。こちらも深い問題なので追って記事を追加します。
なせこんな問題点ばかりなのか【少子高齢化と民主主義の限界】
日本の国民皆保険制度は重大な問題点が非常に多いのですが、なぜこんなことになってしまったのでしょうか。
医療にとどまらず、年金制度を含む社会保障全体で考えるとその理由が見えてきます。
原点は少子高齢化です。そして、ひとたび少子高齢化となるとどんどん悪循環となる政治システムがあります。
高齢者を現役世代が支える、その仕組みは仕方ありません。むしろ、そうあるべきです。
しかし「世代間格差」に関しては是正が必要です。2008年時点での高齢者と、若者の生涯受益格差は、1億2000万円です。
今の高齢世代が現役世代であった時代は、高齢者が少なく、非常に少ない社会保障費の負担でよかったのです。
現在は少子高齢化。なのにその当時と同等、いいえ、それ以上の社会保障を現在行っています。するとどうなるでしょうか?
お金を大して払っていない高齢世代が、現役世代から搾取することで、受けられるはず以上のサービスを受けている「世代間格差」があります。
現在の人口比率で、高齢者が少なかった時と同等以上のサービスの維持は不可能です。何かは犠牲にする必要があります。
お金は無限ではありません。当たり前なのにそんなことができません。なぜか?
民主主義のシステム上、政治家は人口の多くを占める高齢世代にいい顔をする必要があります。
高齢者向けのサービスは良くして、「票稼ぎ」をする必要があります。
現役世代はどんどん搾取され、その金銭的負担から子どもをつくるのが厳しい状況に追いやられます。どんどん少子高齢化が進みます。
現役世代の投票率を上げて何とか高齢世代に立ち向かわないと、現役世代は高齢世代の奴隷と化します。危機的な状況です。2008年の時点ですでに1億2000万円余計に払わされる計算です。
「少子高齢化」「民主主義の政治システム」から国民皆保険制度は重大な問題点は改善に向かうではなく、悪化していきます。
2040年問題について
2021年の日本の年間医療費は45兆359億円でした。国民一人当たり年間35万8800円です。
高齢者数がピークとなる2040年度には日本の総人口は約1億人まで減少するのに対し、高齢者(65歳以上)の人口が約4,000万人と、全体の4割に達します。
医療費は2021年の1.7倍の67兆円になる見通しです。 国民一人当たり年間67万円です。
これが「2040年問題」です。
現役世代が約6,000万人に対して4,000万人の高齢者を抱えるため、現役世代1.5人で高齢者1人を支える計算となり、国民医療費を含む社会保障制度の破綻の危険性があります。
2040年、現役世代だけで医療費を割ると、一人当たりの負担額は年間約112万円となります。
年金も含めた社会保障費全体だと年間190兆円、現役世代1人あたりの負担額は約317万円です。
さすがに負担しきれないので、現行の制度の維持は困難でしょう。
国民皆保険制度、社会保障制度の維持の先に日本沈没
2040年には推計で、社会保障費全体だと年間190兆円、現役世代1人あたりの負担額は約317万円です。
これに加えてその他の税負担もあり、これでは社会保障と税金のためだけに働く社会になってしまいます。
本来はそうならないように制度の問題点を解決するべきです。
しかし政府は、ひたすら現役世代から搾取を続けて、問題だらけの制度を無理やり維持していく方針のようです。
後に詳しく解説します→こちら
累進課税で高収入な人ほど負担率も高くなります。
つまり、日本にいると「若い人」「高収入な人」ほど、どんどん不利になるのです。
これでは、「若くて優秀(高収入)な人ほど海外へ移住する」という動きが見られるようになります。
すると日本に残された現役世代は余計にキツくなってしまう、悪循環が起きて、日本沈没へ向かいます。
「若くて優秀(高収入)な人ほど海外へ移住する」動きはすでに始まっています。寂しい国になります。現状のシステムでは仕方がない、自然な流れですね。
また、医療技術の高度化や高額な薬の開発が相次ぎ、医療費は膨らんでいきます。その全てを本当に公費で行うべきなのでしょうか?
もう少し考えた方がいいと思います。
このままでは、試算よりもさらに医療費は大きくなることが予想されます。
例えば、最新のロボット手術は運用方針を誤っており、無駄に医療費がかさんでいます!
認知症の最新の高額な薬である「レカネマブ」も話題です。
国民皆保険制度、社会保障制度は維持は現行のまま維持することは不可能。また、大幅な改革を行わないと日本から優秀な人はどんどん流出します。
現状の国民皆保険制度、社会保障制度は維持しようとすると、「高齢者の楽園」という状態を経て日本沈没に向かっていきます。
国民皆保険制度の維持のために本当に必要なこと
本当に必要なことは、現状行われている「問題だらけの制度を無理やり維持すること」ではなく、
「制度の問題点を解決して無理なく維持可能にする」ことです。
当然のことですね。
国民皆保険制度の問題点7つ
- 医療の安売り(医師を低賃金でこき使う)
- セルフメディケーションが普及しない
- 過剰医療につながる
- 医療費の増大に歯止めがかからない
- 保険料収入の減少
- 世代間格差の拡大
- 皆保険制度の適応される医療行為の範囲がおかしい
これらを解決するためには、反対のことを行えばいいのです。
多くの問題点が少子高齢化を原因としています。少子高齢化を解決できれば話がはやいのですが、非常に難しそうです。
できなくはなさそうな以下の3点に絞って解説します。
- 医療の安売りをやめる
- 過剰医療をやめる
- 医療に対する司法の見直し
- 皆保険制度を適応する医療の範囲を見直す
国民皆保険制度の維持は相当難しいです。制度設計そのものが「癌」のようなもので、少子高齢化になると国家崩壊システムとして機能しているように思います。
医療の安売りをやめる
保険医療の安売りで優秀な保険医が現場を離れています。
また、セルフメディケーションが広がりません。
医療の値段を適正化してセルフメディケーションを普及させる必要があります。
医療が値上がりして利用しにくくなってもセルフメディケーションが普及すれば国民はむしろ健康になるはずです
過剰医療をやめる
過剰医療がうまれる背景には以下のものがあります。
- 質の高い医療の安売り
- セルフメディケーションの遅れ
- 不当な医療訴訟
つまり、過剰医療をやめるには国民皆保険制度の改革と、医療に対する司法の仕組み、医療訴訟についての改善も必要です。
過剰医療が起きにくく、セルフメディケーションのモチベーションにつながる程度に、医療を適正な価格にする必要があります。
医療に対する司法の見直し
非常に根が深い問題です。医療に対する司法はひどいもので、「医療崩壊」「萎縮医療」「過剰医療」をうんでいます。
国民皆保険制度との相性がものすごく悪いです。
医療訴訟がどのようにして医療への悪影響(「医療崩壊」「萎縮医療」「過剰医療」)を生み出しているかは以下の記事を参照してください。医療訴訟についてどのように改善しなければいけないかも解説しています。
皆保険制度を適応する医療の範囲を見直す
細かくいうとキリがないのですが、特に終末期医療に関して見直す必要があると思います。
先に述べた通り、日本は「寿命」という概念がなくなってしまっています。
日本では、世界の価値観から見たら「寿命」の方に対して体を痛めつける治療を行なっている現状です。日本はあまりにも「寿命」の認識が歪んでいます。
司法の判決をみてみると「寿命」という概念が存在しません。患者が「寿命(世界の価値観から見て)」で亡くなっても、医療者の責任を問うような判決を出していることがあります。
司法の責任は非常に重いです。
こうなったら「寿命」というのを日本なりに決めておかないと、医療行為を行うと「生きていることにする」ことはできてしまします。そこに無限に医療資源や、公費が投入しされています。
筆者はこのことに耐えられませんでした。誰も幸せにならない治療が行われていることもあります。公費で。
予算委員会(2024年3月25日) 医療制度改革についての答弁
2024年3月25日予算委員会で医療制度改革についての答弁がありました。
その内容を簡単に紹介します。
この予算委員会で保険制度の維持ができないことは、国のお墨付きとなりました。
厚生大臣の武見敬三大臣が高齢者の医療負担軽減は「今から考えても間違いだった」と認めました。
さらに、「このままいけば現役世代の保険は高齢者の医療費で破綻する」「今、現在高齢者の赤字医療費を現役世代が埋めている事」を認めて、その上で現役世代の負担軽減を図らなければならない、と発言しました
分かっていないがら逆方向の政策が行われています。現役世代の負担はどんどん増えています。
現役世代は本来今の半分の保険料でやりくり出来るのに、残り半分を勝手に高齢者の保険料の穴埋めに使われています。現役世代の保険料はどんどん上がります。
こちらが答弁の内容の動画です。
日本維新の会の音喜多さん、こちらの答弁で医療保険の世代間格差についてのみならず、終末期医療についても切り込んでいます。
この答弁の音喜多さん、筆者は推します!!日本維新の会は国民皆保険制度の適切な方法での維持を提言している唯一の政党と言って過言ではないと思います。
予算委員会(2024年3月25日) 医療制度改革についての答弁
クリック・タッチで開きます
出典:https://youtu.be/yxclhVkLKzQ 概要欄
- 高齢者の医療費負担について、1970年代の無償化からの歴史的経緯を考えると、本来は全員一律3割負担とするのが制度の原則であり、現在の負担割合は例外的な措置と考えるべきではないか。この制度の原則に立ち返った議論が必要と考えるが、大臣の見解を伺いたい。(厚労大臣)
- 世代間の公平性と医療制度の持続可能性の観点から、高齢者医療の窓口負担改革は、医療制度改革において非常に重要な課題と考えるが、この認識について総理の見解を伺う。(総理大臣)
- 改革工程表でも触れられているが、速やかに窓口負担改革に着手するべきではないか(総理大臣)
- 70歳以上の高齢者の自己負担限度額全般について、見直しが必要と考えるが、厚生労働省の見解を伺う。(厚労大臣)
- 終末期医療の適切な提供と医療費負担の適正化には、終末期医療の定義の明確化とそれに基づく統計整備・ガイドライン策定が不可欠であるところ、厚労省は終末期医療の定義を定め、それに基づく統計収集と分析、ガイドライン策定を行っているか。(厚労大臣)
- 終末期医療の定義が明確でないため、終末期医療の実態把握が困難な状況にあると考えるが、こうした現状を放置することは、持続可能な社会保障制度の構築の観点から問題があるのではないか。終末期医療の定義の明確化と、それに基づくデータ収集・分析を進め、医療資源が適切に活用される制度設計につなげるべきと考えるが、総理の見解を伺いたい。(総理大臣)
国民皆保険制度 政府の残念な運営方針
すでに少しずつ述べてきましたが、まとめます。
本来は以下のように、世代間格差を縮小し、皆保険の適正化、司法の適正化に取り組むべきです。
- 過剰医療をやめる
- 医療に対する司法の見直し
- 皆保険制度を適応する医療の範囲を見直す
現在の政府の方針は残念ながら、これと真逆の運営方針をとっています。
医療制度ごと日本を沈没させる方針なのかと疑ってしまします。
- 現役世代からの搾取を強化
- 票取りのための高齢者優遇
- 医師の給与の削減
現役世代からの搾取を強化
医療費の増大が問題になっているのに、「費用対効果の悪い治療」「使い方を慎重に検討しないと無駄に高額なだけで患者様のためにもならない治療」をどんどん保険適応にしています。
「費用対効果の悪い治療」の例を挙げればキリがないですが「認知症の進行を少し遅らせるのに1人につき年間約300万かかる薬:レカネマブ」は一つのいい例です。
「使い方を慎重に検討しないと無駄に高額なだけで患者様のためにもならない治療」の代表が「ロボット手術」です。
これら高額な治療を保険適応として、誰が負担しているのかというと、現役世代が中心です。
これらの高額な治療を誰が受けているかというと高齢世代が中心です。
現役世代からの社会保障費の搾取を強化し、是正しなければいけないはずの「世代間格差」を拡大していく方針です。
票集めのための高齢者優遇
高額で「コスパの悪い治療」を保険適応にするだけにはとどまりません。
人口比率が多く、医療をたくさん受ける高齢者の方が医療費の負担率は低く設定されています。
年金を支給した上で、医療費もお安くして高齢世代に忖度しまくりです。
高齢世代は自ら収入を得る力はないかもしれませんが、「貯蓄」「金融資産」が現役世代より圧倒的に多いです。
社会保障料や税金が少なかった時代に稼いでいるので当然ですね。
年代 | 平均貯蓄額 |
29歳以下 | 155万円 |
30~39歳 | 404万円 |
40~49歳 | 653万円 |
50~59歳 | 1,051万円 |
60~69歳 | 1,339万円 |
70歳以上 | 1,264万円 |
本来、高齢者を優遇する必要のある合理的な理由はありません。
なのに、なぜ改革されないかというと、政治家の「票集め」のためです。
少子高齢化により民主主義の限界を迎えています。
医師(とその他医療関係者)の給与の削減
高額な医療の恩恵を受けるのはメーカー(外資系が多い)
高額な医療が保険適応になっていることは述べました。医師の給料が上がりそうなものですよね。
ところが、全くそんなことはないのです。
高額な医療の大半は「医療機器」「薬剤」が高いだけ。つまり儲かるのは「医療機器メーカー」「薬剤会社」です。
高額な「医療機器」「薬剤」をつくる会社は海外の会社が多いです。日本の税金を大量に海外に流出させている実情があります。
実質マイナスの診療報酬改定で医師の給与削減へ
さて、医師の給与について。
保険診療は「診療報酬」により医療行為の値段が決められてます。この値段により、医師、その他医療関係者の給料が左右されます。
「診療報酬」は2年に一度見直され、改訂されます。どのように改定されたかで、国が保険医(保険診療を行う医師)の給料を上げたいのか、下げたいのかがわかります。
2024年も診療報酬改定が行われました。改定率が+0.88%です。全体としては少し診療報酬が上がりました。
これで、「上がったじゃん!!」は浅はかです。ちゃんと考えましょう。
23年度のインフレ率は+2.7%、24年度のインフレ率(予測)は+2.5%です。2年で+5.7%のインフレ。
にもかかわらず、診療報酬本体の改定率が+0.88%ということは、実質は2年で−4.32%のマイナス改定です。
実質の診療報酬マイナス改定。今後も行政は医師、その他医療関係者の給料を実質削っていく方針のようです。
プラス改定だとニュースになっていましたが、浅はかです。悪質な印象操作が行われています。行政はマスコミとグルになって国民をバカにしていると思います。
改定率+0.88%(実質−4.32%)もあくまで、全体としてです。非常に厳しい条件をつけられた診療報酬などもあり、実質はさらにマイナスです。医療現場は困惑しています。
特に医師は世間からは「高収入」というイメージがあり、給料を削られやすい立ち位置にいます。
医師の労働単価はもともと低い
医師は実際は、低単価の労働を過労死ラインを大幅に超えて行っています。それでやっと多少多めに給料をもらえるんです。そこからさらに下がっていきます!!
医師がどのような働き方をさせられているかはこちら↓
医師の働き方改革と宿日直許可について【問題点をわかりやすく解説】
「低単価労働」となる急性期病院から医師が流出したり、優秀な層の海外への流出が見られるようになってきています。
「働き方改革」「診療報酬改定」による待遇の悪化。「過剰医療」をしないと「医療訴訟」に巻き込まれる。こんな状況に改善の見込みがなく、筆者も急性期医療から逃げました。
低単価の労働を行っている医師の皆さま、もう潮時です。保険診療じゃなければこの流れからは逃れられますし、保険診療でもまだ大丈夫そうな領域もあります。
とにかく、逃げる準備、「転職の検討」をしておきましょう。以下の記事を確認して、今すぐ「転職の検討」を!!
政府は問題だらけの国民皆保険制度、社会保障制度を医療関係者の給料を削って維持しようとしているようです。
国民皆保険制度による日本沈没
「高齢者の楽園」という状態を経て日本沈没に向かっている現状についてまとめます。
問題だらけの国民皆保険制度、社会保障制度の問題点は解決ぜずに以下のように維持しています。
・現役世代からの搾取を強化
・票取りのための高齢者優遇
→「世代間格差」拡大。現役世代はどんどん搾取され、金銭的負担から子どもをつくるのが厳しい状況。さらに「少子高齢化」が進む悪循環。「日本沈没」へ。
・医師の給与の削減
→急性期病院から医師が流出したり、優秀な医師が海外へ流出したりして「医療崩壊」へ
医療関係者が現状を容認してしまうと、悪化の一方をたどります。個人が政府の方針を変えることは困難ですが、悪い環境にはNOと言い「転職する」ことはできます。
悪い環境から逃げる医療関係者が増えて、「医療崩壊」が進むと政府が思えば、「正しい方向」へ向かうのではないでしょうか。逃げることは間違いなくいいことです。
特に劣悪な現場で働く医師にとっては「転職の検討」は必須の時代です。
国民皆保険制度(保険医療制度)まとめ
非常に危機的な状況であることはご理解いただけたかと思います。
今はなんとかなっています。ギリギリで。
医療関係者の献身により、政府の無能な運営をカバーしている状況です。しかし、現場は我慢の限界がきています。
今後さらなる少子高齢化で現状維持が不可能なのは分かっていることです。
そんなこと何十年も前に分かっていたことですが。。。
政治はやる気なし。むしろ悪い方向へ。
民主主義の限界でしょうか。
まだ「正しい方向」に向かえば間に合います。しかし、現状その逆方向へ向かっています。
保険医療に従事していることで日本沈没の片棒を担いでいるように思えて、仕事が苦痛でした。そして自分の待遇も劣悪。
筆者も劣悪な環境である急性期の現場から「転職」して逃げて、海外へ行けるように準備しています。
医師が真面目に医療を行なっていたら、生活に困らない収入が得られるという時代は終わりが近づいています。
働く場所はきちんと選ぶべきです。
まだ間に合ううちから「転職の検討」を!まだいい現場はたくさんあります!
<参考文献>
我が国の医療保険について, 厚生労働省
医療提供体制の国際比較, 厚生労働省
世界の医療と安全(東京海上日動火災保険株式会社)2019年
公的医療保険って何だろう, 厚生労働省
医科点数表
OECD HEALTH Statistics 2019
(参考1)令和3年度 国民医療費の構造, 厚生労働省, 令和3年10月1日
第1章 平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容
平成 17 年経済財政白書(内閣府)
未来工学研究所 議論の広場 『未来世代基金』の創設
消費者物価指数(Cpi), 総務省
2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)12月分及び2023年(令和5年)平均, 総務省, 令和6年1月19日
内閣府ホームページ 第28回税制調査会 総28-6(案とれ)
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